バリの祭りは殆どが宗教に絡んだお祭りだ。結婚式や葬式もお祭りと言えば言えないことはない。しかし、このウサバ・サンバは素人目には宗教絡みとはとても思えない。とにかく奇妙な祭りである。
祭りは前触れとしてガムランと踊りの一隊が会場の中を練り歩く。主会場は丁度ボクシングのリングくらいの大きさで、高さもほぼ同じくらい。ただしリングのように周囲をガードするロープはない。この特設リンク上またはその周辺に村の若い男性全員が上半身裸で集まっている。手には夫々武器?を持っている。武器とは幅7〜10cmくらいの鋭い棘のついたサボテン科?の茎である。これを25cmくらいの長さに切り、7〜10枚くらいを紐で束ねてある。それが武器なのだ。我々はこの束に触るのも怖いくらい棘々しい。
右手に棘の武器、左に盾を持った男が上半身裸で1対1で戦う。目的は相手の体にその棘を擦り付けるのだ。最初は盾を持っているが、直ぐに盾を捨てて取っ組み合いになり、お互いに棘を相手に擦り付け合っている。対戦時間は5〜10秒と大変短いがこれを何回も何回も相手を換えて戦う。戦いが進むにつれ、男たちの背中は棘だらけになり、次第に血が滲み、ついには流れるまでになる。この奇妙な戦いは2時間ほどで終わった。全員傷ついた体にお互い黄色い粉を塗り合う。これは草の根からとった化膿止めとのこと。その後はお互いの健闘を称え合い、和気あいあいと飲食しながら談笑している。
この祭りの宗教的な意味はさっぱり分からない。何のためにお互いが傷つけ合うのかも分からない。リングの周りは観光客が取り巻いているが、直ぐそばの建物には着飾った村の女性たちがズラーっと並んで見ている。恐らく女性たちは男性の品定めをしているのであろう。だから男たちも必死で戦うのだ。
この村では外の村の人と結婚するとこの村を出なければならない決まりになっている。従って村の若い娘が全員揃って見ている前では、馬鹿げたこととは知りながらも必死に頑張らなければならないのだろう。動物のメスを巡ってのオス同士の戦いに何となく似ていなくもない。