バリを代表する踊りはレゴンクラトン、バロンダンスそしてケチャであろう。
レゴン、バロンともに美しくタイの踊りに匹敵するものと素人ながら評価している。しかしもっともバリらしい踊りといえばモンキー・ダンスと呼ばれているケチャであろう。
ケチャの歴史は新しく、ものの本では1927年にドイツ人画家によって創作されたという。基になっているのはバリに古くから伝わる宗教行事とのこと。物語はインドの叙事詩ラーマヤナを基にした単純なストーリーだから大変分かり易い。
ケチャの最大の特徴はバリ舞踏に付き物のガムラン音楽を一切使わず、肉声のみによる合唱劇という点である。車座に座った100人以上の半裸の男たちが発する「チャッ、チャッ」とか「チョッ、チョッ」という声が唯一の音楽である。5種類以上のリズムパターンがあり、実に複雑な音楽である。ある時は腹に響き渡る豪快さで、ある時は不気味な不協和音で、実に幻想的である。とても人の声とは思えぬような複雑な音、リズムを楽譜もなしにどうしてあそこまで完成されるのか不思議な気持ちになる。
照明も一切使わず、100人を超す半裸の出演者の真ん中に置かれた燭台のみ。幻想的な声がいやが上にも幻想的になり、周囲に木霊となって拡がってゆく。
ケチャはバリ各地で上演されているがウルワトゥ寺院で断崖絶壁を背に演じられるものが圧巻であった。
ケチャの素晴らしさは私の表現力では伝えようがない。見たことのある人にはある程度ご理解いただけると思うが、見たことのない人にはチンプンカンプンであろうことをお断りしておく。